【第0回】短編小説の集いのお知らせと募集要項 - Novel Cluster 's on the Star!
小説とか書くのは初めてだバカヤロー!
みんな上手で投稿するのやめようと思ったけど一応最後まで書いたので投稿しよう。
連続テレビ小説「くにさん」
携帯がブーブー鳴っている。
夢から片足を引っこ抜けない(ちなみに世界一の富豪に謁見している夢だった)ぼんやりした頭の片隅で嫌な予感がジワジワ広がっている。
…バイブが鳴っているということは、昨晩目覚ましをセットせずに寝てしまったということで、そして誰かが電話をかけてきているということは…寝坊。
一秒で脳みその回路がバチバチと音を立てて繋がり、国光は文字通り跳ね起きた。
「ふぁっ!」
変な声が上がるのも構わず携帯を開く。
液晶には千秋という文字。
どうやらキッチンの妻が電話をかけて来たらしい。
通話ボタンを押すとカシャカシャジュージューという音をバックにくぐもった千秋の声が聞こえてきた。
「あのーそろそろ起きてきて下さいませんかー。今日は何の日ですかー。」
そうだった。
今日は長女茜の運動会の日。
国光はムクリと起き上がった。
国光がキッチンを覗きこむと千秋は唐揚げにする鶏もも肉を揉みしだいている最中だった。
茜はと言うと絨毯の上でおとなしく「おおきな木」とかいう絵本を読んでいる。
「ほらー、だから夜更かしするなって言ったでしょ」
千秋がキッチンの入口でボーっとしている国光を見つけてほっぺたを膨らませた。
「ごめん、茜に本を読んでたらそのまま寝ちゃったみたいだ」
「知っています。ギリシャ神話の本を顔に被って寝ていました」
「ギリシャ神話ってもっと児童文学っぽいと思ったんだけどな」
「ばかねぇ、あんなの小学生にだって難しいわよ」
「俺にだって難しすぎる。3ページ読んだら眠くなったよ」
「茜には何の話を読み聞かせてあげたの」
「トロイア戦争の話」
「あきれた」
ブツブツ呟く夫に相槌を入れながら、千秋はものすごい勢いでもも肉に片栗粉をまぶし、油の中にポッチャンポチャン落としていった。
その合間にも、もう片方のコンロに乗っている卵焼きをくるりくるりとひっくり返す。
あっという間に厚焼き玉子をこしらえるとお皿の上にひょいと取り上げ、今度は寿司桶にご飯釜をひっくり返しすし酢をバシャバシャふりかけてザクザクとしゃもじで和えた。
どうやらいなりずしを作るらしい。
ベビーベットの方から長男の陽光がぐずりだす声が聞こえた。
「あなた、ちょっとようちゃん見てきて。おむつじゃない?」
国光はぐずる陽光のおむつカバーを外すと外部から紙おむつの股間のあたりを視認した。
果たして陽光の紙おむつにはくっきりとおしっこを知らせるブルーのLINEが浮かび出ている。
「おお、出た。天晴なジャパン・ブルー」
「ほらそう言うのいいから早く替えて。あと15分で出なくちゃ」
「はいはい、紙おむつ紙おむつ」
呟きながら箪笥の引き出しを開け、紙おむつを取り出す。
国光は時折妄想にふける癖がある。
陽光のおむつを替えるためにベビーベットから抱き上げながら、国光は紙おむつについて考えていた。
『紙』という響きは『神』にも通づるところがある。
それならば紙おむつを『神御陸奥』と読ませるのはどうだろうか。
おそらく、陸奥の国に全裸で暴れまわる男がいたのだ。
あまりの乱暴に呆れた神が、その男の力を封じるためにふんどしのような布で男の股間を隠してしまい、これが神御陸奥の起源と…。
国光が紙おむつにまつわる神話を考えながら陽光のおむつを脱がせているところへ千秋の声が割り込んできた。
「まだ終わってないのー?早く早く!」
ちょっぴり、ほんのちょっぴりのイライラフレーバー。
そのわずかな言葉のトゲに反応して、国光の口から自分でもびっくりするような強い口調の文句が飛び出ていた。
「え、今やってるし。そっちも早く支度しろよ、着替えてないじゃん」
カツン、と空気が固まる音がした。
言ってはいけないことは、口からこぼれた後に気がつくことが多い。
振り返ると千秋が能面のような表情で仁王立ちしている。
「ねぇ、あなたが寝てる間にこっちは茜にごはん食べさせてお弁当作ってたんだけど。」
トーンが2つ程落ちた冷ややかな声。
一触即発。
「かあちゃのすたあきんぐここよ!」
父と母親の尋常ならざる気配を察知したのだろう、本を読んでいたはずの茜が千秋の靴下をもって二人の間に地団駄を踏みながら割って入ってきた。
国光も千秋もハッと我に返った。
「はい、すたあきんぐ」
茜が懸命に靴下を千秋のほっぺたへ押し付けてくる。
「ストッキング、ね」
千秋がきまり悪そうに茜に微笑みかけた。
娘に気を使わせるなんてまったく。
国光は自嘲気味にため息をつくと千秋に目で「すまない」と訴えた。
千秋も「しょうがないわね」と応える。
娘のナイスフォローで冷戦回避である。
「さ、行こっか。」
「あ、ようちゃんフルチンだった」
運動会のプログラムは進み、いよいよ茜が玉入れのために入場ゲートの方へ走っていった。
ビニールシートの脇のベビーカーでは陽光が寝息を立てている。
グランドの方を見ながら国光は言った。
「朝はごめんな。」
「そうよー、こっちだって朝は忙しくてイライラしてるんだから。そういうのちょっとは察してよ」
「うん、悪かった」
年少組のこどもたちはキャッキャ飛び回って中々並んでくれないらしい。
先生が何回も手を叩いているのが見える。
国光はポツリと呟いた。
「なんか、家族としてのバランスって難しいな」
「バランスって?」
「二人だけの時だったら、千秋の気持ちだけ考えればよかったけど、これからは茜とか陽光もはいってくるわけだろ」
「そうね」
「大きくなって、もっと色々考えるようになったら、お互いに主張しあうようになるじゃん、そしたら喧嘩もするだろうしって考えたらちょっと不安になった」
「うん」
「ひょっとしたら俺が単に父親としての自覚が足りないのかもしれないけど」
「あら、それ今気がついたの?」
千秋はクスクスと笑った。
茜たちがようやく並んでグランドに入ってきた。
小さくて低い玉入れのカゴの周りを4歳児たちがぐるりと取り囲む。
みんなもうすでに両手に一個づつ玉を握りしめて真剣な顔をしている。
ピイという笛の音と共にワッと声が上がると子どもたちが一斉に玉を放り始めた。
玉入れが初めてとあって、子どもたちの投げる玉はなかなかかごに入ることがない。
紅い玉が青空に舞い上がっては落ち、舞い上がっては落ちを繰り返している。
「でも」
再び国光が口を開いた
「そうだな、お互い自然に引き合う力があればすぐに元に戻れるのかな」
「はい?」
「いや、何か家族が地球としたら引力があってそれで、んー、なんか言いたいことと違う」
千秋は吹き出した。
「なになになに、ちょっといいこと言おうとして失敗しちゃった感じですか」
「いや、いいこと言おうとかそんなんじゃなくて」
「大変、お父さんは玉入れを見ながら家族間万有引力発見しちゃったんですね」
茶化すなよ、と言おうと国光が千秋の方を向くと、意外にも彼女はちょっと真面目な顔だった。
「それって大黒柱宣言ってことですかね?俺がどっしりと地球になります宣言ってことですか?」
こんな時に眼差しだけやさしいのはずるいと国光は思った。
「うーん。…まあ努力はするよ。あ、ほら始まるよ」
赤と白との陣地が入れ替わり、先生が再び笛をピイと鳴らした。
茜達は歓声を上げながらカゴめがけて玉を投げ出した。
スピーカーから太鼓の音とチアホーンの音が鳴りひびき、べらんめえ調の女性ヴォーカルが歌っている。
『万歳!万歳!日本晴れ 列島草いきれ 天晴れ!』
最近の運動会BGMはえらく洒落ているんだな、と国光は思った。
気がつけば千秋はBGMに合わせてフンフン鼻歌を歌っている。
富士山がちいさく、しかしくっきりと見える秋晴れの青い青い空をバックに、紅玉や白玉が楽しげにパラパラとカゴを叩いては地面へ落ちていった。