僕が主人公の絵本
今週のお題特別編「素敵な絵本」
うちの父親はしがない商業イラストレーターだった。
今でもそうなのかもしれないが、イラストレーターという仕事は名の売れた作家以外は1点いくらというような下請け仕事が多い。
僕の父親は絵がものすごく上手いのだが、いかんせん商売ベタなところもあり、我が家は極貧とまでは行かないがそれなりに慎ましい生活をしていた。
今思えば、あの時は収入も不安定で色々苦労があったんだろうなと気がつくところがある。
しかし、父も母もとにかく家族との時間を大切にしてくれていた。
小さい頃は友達のように欲しいものが買ってもらえず不満に思っていたが、家族との時間というのは両親からの一番の贈り物だったのではないだろうか。
父親は僕が小学校に上がる頃、僕を主人公にした1冊の絵本を描いていた。
そしてそれを出版してもらおうと、出版社に持ち込んだ。
初めは他の絵本などを読んで「このくらいなら僕にも書ける」というくらいの意気込みだったように記憶している。
だがしかし実際にはさんざんダメ出し頂いたようで、それから父親は仕事の傍ら何年も出版社に通うことになる。
実は父親は結構マイペースなのだが、母親がいい意味でケツを叩いていたお陰で、初めて持ち込んでから6年後、僕が小学6年の頃にその本は出版された。
福音館 こどものとも50周年記念ブログ powered by ココログ: あきちゃんとかみなり
自分が主人公の絵本が出版されると言うのはなかなかむず痒いものである。
残念ながら出版された当初は僕も思春期反抗期へ進む真っ最中だったためなかなか素直に喜ばなかった記憶があるが、こんなもの作ってもらえる子供はそうそう居ないわけでずいぶん果報者である。
大人になり、この本を読んで育ったとか、この本を子供に読み聞かせていて子供が大好きだったという話を聞く機会が度々あり、ようやく素直に嬉しく思えるようになった。
いやぁ、こんな素敵なものをもらっているのに全然親孝行していないなぁ。
本の内容をちょっと紹介しよう。
泣き虫の僕がわんわん泣いているところに、雷様が「泣き虫小僧のおへそは旨いから食べてしまうぞ!」とやってくる。
僕が「へそまんじゅうをあげるから許して!」とへそまんじゅうを渡すと、雷はそれがすっかり気に入ってしまい「へそまんじゅうを百個よこせ!」と僕を恐喝する。
困った僕はお母さんに相談し雷にへそまんじゅうを百個渡し、万事解決とおもいきや…。
まさかまさかの大どんでん返しのハッピーエンド(おおげさ)の話である。
最初の持ち込み段階では確か水彩画で描いていた記憶があるのだが、出版の際は多色刷りの木版画になった。
色合いも絵本にありがちなビビットな色合いでなく、ほんのり落ち着いた和の色合いで暖かみがある。(子供の頃はふつーの絵を書けばいいのに…と内心不満だった)
ごく最近復刻版として再出版されたので、どこかの本屋さんにはひっそりと在庫があるのかもしれない。
そんなわけで色々外国の絵本など好きな絵本は多々あるのだが、やはり僕の一番の絵本といえば「あきちゃんとかみなり」になる。
どこかの本屋で、図書館で見かけたら是非手にとって見て欲しい。
そしてこんな素敵な本を書く人が親でも、子供は残念な感じになるんだなぁと実感して頂きたい。
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ちなみに父親は3年前に20年越しの2作目『かぼちゃばたけのはたねずみ』を出版しました。
こちらも是非見かけたらお読み下さい。
老いて尚盛んなる父親は次回作の制作にも意欲的です。
木村晃彦先生の次回作にご期待ください!